| ROLAND KIRK “The Return of the 5000 Lb. Man” | - 2016/10/23
- ROLAND KIRK “The Return of the 5000 Lb. Man” WARNER BS 2918 (USA)
私の好きなアルバムが入荷。 こういうのを聴くと、ジャズって良いなあといつも思う。 このアルバムは1976年、彼の最晩年の2・3枚の内の一つである。 それなりに、彼の作品には「素朴」さ「したたかさ」が混在していて、ある意味確信犯的な信者にウケるサウンドを感じているのだが、晩年の作品もまた どれがどれと捨てがたいものがあるので、一枚だけを取り上げるのも憚られる。 だが、私が考える一枚は特にこれだと言いたい。
彼は77年に脳梗塞で亡くなったのだが、発売当時は、これが半身不随になった直後の作品だと言われていたのだが、最近の書物を読むと、倒れる直前の録音と言われている。しかし、何故そんな事が気になるかと言うと、この作品を聴いた人は、だれでも彼が悟りの境地に到達したかのような気がするからである。 ジャケットを見るとタイトルが「帰って来た5000ポンドの男」となっていて、メートル法に直すと2トンの男とはいったい誰の事かと考えてしまった。 彼の銅像の事なのかと思ったり。 ウルトラマンの事かと思ったり。なんだろう?
また、一曲目の「Eulipions」というのはどういう意味なのだろうと考えてしまったが、表紙を読めば彼が考えた架空の国であるらしい。その辺りから、どうも死後の世界を意識したような気配がある。 そう想いながら聴けば、この作品は、アメリカの音楽の歴史そのものではないか? そうか、彼は今まで生きて来て、体験した自国の音楽を、彼の中で解釈しそしてこのアルバムに残した。 冒頭のEulipionsはテナーサックスをじっくり聴かせる。その音色は世界トップ・クラスなのだが、彼はそれをちょっと刺激的にしてある。そこが何とも言えず凄い。考えて見ればテナーサックスこそジャズの代表的楽器である、サックスあってのジャズとも言える。そこにMCが入ったり、コーラスがあったり、まさにアメリカの音楽エンターテイメントのワン・シーンそのものである。 次のSweet Georgia Brownにはウォッシュボード(washboard)=洗濯板が使われる。すなわち、黒人ジャズエンターテイメントに欠かす事の出来なかった楽器でもあったし、黒人音楽の歴史でもある。 Loving youはミニー・リパートンの曲で世界的にヒットした。アメリカ70年代の代表的な曲を彼が取り上げても不思議はなく、その彼女が76年にガンと報じられたのだから、彼が彼女の音楽をピックアップしても不思議はない。 Goodbye pork pie hatはミンガスの代表曲でもある。ミンガスはジャズの歴史的にも音楽的にも代表者であり、またローランド・カークも在籍した事でもあり、ここに取り上げる必然もあったのだ。 そして、Giant stepsはコルトレーンの代表曲、コルトレーンこそアルバムがスミソニアン博物館に収納されている現代ジャズの頂点の一人でもある。 こうしてつらつらと考えると音楽の歴史を、彼は編纂して聴かせてくれたのではないか?
そうして思えば、彼は黒人の音楽の造詣が深く、その歴史を直接聴いてきただけに、こうしてサウンドに表す事が出来た。 このアルバムがジャズとそれを取り巻く周辺の音楽シーンを、取り上げて聴かせ、彼の集大成としたのではなかろうか。 こうして聴けば、彼の音楽は、やっぱり大した物なのである。
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